病室からの景色 / The View From My Hospital Room

制作意図・コンセプト

本作は、作者の入院体験を題材にしたメディア・パフォーマンス作品である。実際に病室で記録した映像やドローンなどのテクノロジーを交えながら展開する。上演は、作者・平本瑞季本人のほぼ一人芝居によって行われる。病室に入ることによって見えてきた自分の今までの人生の自己省察をコメディタッチに描く。作者自身のパフォーマンスと映像を重ね、セルフドキュメンタリーを拡張していく試みである。病室という閉ざされた内省的な空間は、否応無く過ぎていく日々の時間を強制的に中断させていくかのように感じられる。今まで自分が生きてきた24年間や人生を取り巻く人々の関係性を振り返ることで、社会に対する自分の宙吊りな存在の仕方が浮かび上がっていく。病室という非日常を通して、作者が自身の存在を認識していくプロセスを描いていくことで、大人になっていくことはどのようなことなのか、問題提起をしたいと考えた。


制作プロセス

私は突然、人生で初めて入院した。それは夏休み期間中の成果発表の講評会2週間前だった。もう間に合わない、ヤバイ…私はそう思った。しかし、入院することもそうそう無いだろうし、この体験そのものを作品にすればいいんじゃないだろうか、と思い立ち、病室でiphone片手に映像を撮り始めたのがことの始まりだった。病室では、とにかくやることが無い。というか、しんどくて動く事ができない。そんな中、様々な出来事が頭の中をぐるぐると旋回し始め、私は思いを巡らせるのだった。そして、なんと講評会の日は10月9日。まさに私の誕生日当日だったのである。技術面では、あらかじめ編集された映像と作者自身のリアルタイムの身体的な演技を交差させ、新たな言語空間を紡いでいく。ドローンを用いて飛んで行く2万円。モニターで流れる国会中継。他にも様々な仕掛けを用いてそれらとパフォーマンスの新しい関係の構築を試みた。


2015年9月15日、作者は自身の25歳の誕生日を前に、人生で初めて入院した。原因は定食屋で食べた牡蠣フライ定食による食中毒であった。社会人として働く同い年の看護師や若い医師の先生との出会い。淡々と落ちる点滴の雫や病院食。作者はあらゆることから自身の人生を見つめ直し、かつて病気で入院していた父をはじめ、家族について思いを馳せるようになる。やがて自分も学生ではなくなり、自立していかなければならないことを思いながら、作者は退院する。そして、退院祝いに、ご飯がきちんと食べられることに感謝をこめながら、牡蠣フライ定食をまた食べるのであった。その日、彼女は25歳になった。

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